大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和60年(行ウ)75号 判決 1987年11月30日

原告

四條畷カントリー倶楽部

右代表者理事長

大門正輝

右訴訟代理人弁護士

八代紀彦

佐伯照道

西垣立也

山口孝司

天野勝介

辰野久夫

中島健仁

被告

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

寺浦英太郎

右訴訟代理人弁護士

井土福男

右指定代理人

横溝幸徳

塚本あかね

被告補助参加人

総評大阪一般合同労働組合

右代表者執行委員長

松村勝正

右訴訟代理人弁護士

北村義二

主文

一  被告が大阪地労委昭和五九年(不)第三七号不当労働行為救済申立事件について昭和六〇年一〇月二二日付けでした命令を取り消す。

二  訴訟費用のうち参加によって生じた部分は被告補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文第一項と同旨

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告、被告補助参加人

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、補助参加人(以下「合労」ということがある)が原告を相手方として申し立てた昭和五九年(不)第三七号不当労働行為救済申立事件について、昭和六〇年一〇月二二日付けで別紙のとおりの命令(以下「本件救済命令」という。なお、本件救済命令中に使用されている「ゴルフ場」、「大盛起業」、「経営権紛争」、「キャディ組合」、「復帰申し入れ」、「立入禁止の仮処分」の略称、略語等はこの判決においてもそのまま使用する。)を発し、右同日この命令の写しを原告に交付した。

2  しかしながら、本件救済命令は、次に主張するとおり法律の解釈・適用を誤った違法なものである。

(一) 使用者性の判断についての誤り

本件救済命令は、原告が、合労大盛起業支部(以下「合労支部」という)所属の組合員(以下「組合員」という)に対して、使用者の立場にあるとして、補助参加人の原告に対する本件救済申立てを適法であると判断した。

しかしながら、組合員のうち一部を除く者は、かつて原告の従業員であったことはあるが、昭和五八年三月末日をもって原告を退職して大盛起業に入社した者であるし、右一部の組合員は当初より大盛起業の従業員(以下「一部従業員」ともいう)であり、原告の従業員であったことはない。したがって、組合員の使用者は大盛起業であって、原告は、労働組合法第七条二号の使用者には該当せず、本件救済命令の右判断は誤っている。

(二) クラブハウスでの団体交渉を命じた誤り

本件救済命令は、合労が団体交渉をゴルフ場内のクラブハウスとするよう申し入れていたのに対し、原告が組合員に対しゴルフ場への立入禁止の仮処分命令が発せられていることを理由にクラブハウスでの団体交渉を拒否したことは、団体交渉を拒否する正当な理由にあたらないとして、労働組合法第七条二号に該当する不当労働行為にあたると判断した。

しかしながら、原告は、団体交渉そのものを拒否したことはなく、それどころか、原告から合労に対し再三団体交渉に応じる旨の回答を行っている。ただ、場所については、組合員に対して立入禁止の仮処分が出されている(当庁昭和五九年(ヨ)第一三五八号立入禁止等仮処分申請事件についての同年四月一一日付けの決定)ため、他の場所での団体交渉が適当であるので、被告の事務所のある大阪府立労働センター等で場所を用意し、原告の代表者以下が団体交渉に応じるべく待っていたのであるが、合労はクラブハウスでの団体交渉に固執し、遂に出席することはなかったのである。団体交渉の場所は、双方の合意で決めるのが本来であるが、合意が整わない場合、一方的に組合側の指定する場所で団体交渉に応じなければならないものでは決してない。合労の指定したクラブハウスには立入禁止の仮処分が出されているのに比し、原告の用意した場所は合労が団体交渉をするのに何も支障はないのである。したがって、原告が他の妥当な場所での交渉には応ずるがクラブハウスでの団体交渉に応じないとしたことは、労働組合法第七条二号の「正当な理由がなくて拒むこと」に該当しないことは明らかであり、本件救済命令の判断は誤っている。

3  以上の次第で、本件救済命令は違法な行政処分であるから、原告は本件救済命令の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因のうち、被告が本件救済命令を発し、その写しを原告に交付したことは認め、その余の事実及び主張はすべて争う。

三  抗弁

使用者性及び不当労働行為の成否についての判断は本件救済命令に記載の通りであって、適法であり、取消原因は存在していない。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  認否

本件救済命令中の「第1 認定した事実」」に関し、次のとおり認否する。

(一) 「当事者等」に関して

(1) 同項(1)の事実は認める。

(2) 同項(2)のうち、組合員数は知らないが、その余の事実は認める。

(二) 「ゴルフ場の運営等について」に関して

(1) 同項(1)の事実は認める。

(2) 同項(2)のうち、原告支配人には「その後は倶楽部常務理事の職にあり、かつ大盛起業常務取締役の職にあるものが就任して」いたことは否認し、その余の事実は認める。

原告支配人には、必ず原告常務理事の職にある者が就任していたが、大盛起業常務取締役の地位にある者とは限られておらず、現に大盛起業常務取締役の地位になかった者も原告支配人に就任している。

(3) 同項(3)のうち、採用の可否は原告及び大盛起業の双方によって決定されたことは否認し、その余の事実は認める。

原告の従業員の採否は原告のみによって決定されていた。

(三) 「五八年二月以降における労使関係について」に関して

(1) 同項(1)の事実は認める。

(2) 同項(2)の事実は認める。ただし、鉄村某が原告の副理事長として伝えたという趣旨ならその部分は否認する。

同人は大盛起業の代表取締役副社長でもあったのであり、この時は副社長として述べたものである。

(3) 同項(3)の事実は認める。

(4) 同項(4)のうち、従業員が大盛起業から従来の労働条件を維持するとの確約をとりつけた後に業務に従事したことは知らないが、その余の事実は認める。なお、原告の仮処分申請は昭和五八年三月三日である。

(5) 同項(5)の事実は認める。

(四) 「五九年二月以降における労使関係」に関して

(1) 同項(1)ないし(3)の事実は認める。

(2) 同項(4)のうち、未組織従業員に関する部分は否認し、その余の事実は認める。

この時未組織従業員は雇用責任は原告及び大盛起業の双方が負うべきであるとの申入れをしていない。自分達の雇用主は大盛起業であるので大盛起業と協議してほしいとの申し入れをしたのである。

(3) 同項(5)の事実は認める。

(4) 同項(6)の事実は認める。ただし、あっせんが不調に終わったのは昭和五九年四月九日のことで、この不調の主な理由は合労が原告の経営するゴルフ場に対して業務妨害行為をしたことによることは後記のとおりである。

(5) 同項(7)の事実は否認する。

(6) 同項(8)の事実は認める。

(7) 同項(9)の事実は否認する。ただし、小川が三月三〇日申入書を持参したことはある。

(8) 同項(10)の事実は認める。ただし、大盛起業の指示によるものである。

(9) 同項(11)のうち、支部結成を通知したことは認めるが、その余は否認する。合労は、一方的に大盛起業の従業員として就労すると通告してきたものである。

(10) 同項(12)ないし(14)の事実は認める。

(11) 同項(15)の事実は認める。ただし、原告が無断撤去につき陳謝したのは、合労の抗議行動によりクラブハウスへ突入されそうになったため、警察の要請もあり、危険回避のためであった。あくまで無断では撤去しないということにすぎず、原告の申請により後に大阪地方裁判所は旗等撤去の仮処分決定を出した。

(12) 同項(16)ないし(24)の事実は認める。

2  反論

(一) 本件の事実関係について

(1) 原告は、昭和三四年一月一〇日ゴルフ場の土地建物諸設備を所有する大盛起業との間にゴルフ場使用契約を締結し、昭和三五年四月二九日ゴルフ場の経営を開始し、現在に至っている。

ゴルフ場の経営主体はあくまでも原告であり、大盛起業はゴルフ場の経営とは全く無関係である。すなわち、来場者の支払うフィー等の収入はすべて原告に入り、原告がキャディ等従業員を雇用し、その給与等の経費はすべて原告が負担し、当然のことながら利益はすべて原告に帰属する。大盛起業は、原告から使用料の支払を受けてその中から固定資産税、ゴルフ場施設の修理費用を負担するというだけの存在にすぎない。

ところが、当時の原告の理事長であり、かつ、大盛起業の代表取締役であった大屋政子及び原告の副理事長であり、かつ、大盛起業の副社長であった鉄村俊夫は、昭和五八年初めころ大盛起業がゴルフ場の経営権を有していると主張して、日本ゴルフ振興株式会社(以下「日本ゴルフ振興」という)に対し、大盛起業の過半の株式を約二〇億円で売却したうえ、原告の従業員に対し、今後は日本ゴルフ振興の指示に従うよう命じ、更に、日本ゴルフ振興は、その取締役及び従業員を原告の事務所に派遣し、大盛起業を通じて原告の占有を実力で奪い、ゴルフ場の経営を支配するようになった。

(2) 大盛起業は、その直後原告の従業員に対し、その身分を原告から大盛起業に切り替えるよう求めた。原告の理事長らは、従業員の代表格の小川守喜代(以下「小川」という)をはじめとする従業員の代表者と二回にわたって会合を持ち、身分を切り替えないように求めたが、大盛起業が実力をもってゴルフ場の全施設を占有していたため、原告は収入がなく給与の支払を約束できない事情にあった。そこで原告は、「直ちに大阪地方裁判所に経営権を取り戻す仮処分を申請する、その決定が出るまでには長期間を要しないから、移籍には応じないでほしい。」旨を要請した。しかし、この要請にもかかわらず、全従業員はその身分を大盛起業に移した。なお、この移籍に危惧を感じた殆どのキャディは本件救済命令に認定のとおりキャディ組合を結成し、大盛起業との間に労働条件についての確認書を結んで身分を移している。また、小川を代表とする従業員はキャディ組合と異なり、労働組合の結成、労働争議等をしないことを大盛起業に誓約して身分を移した。そして、移籍後、従業員らは大盛起業の指揮命令下に入り、原告の指示には従わなくなった。

(3) 原告は、昭和五八年三月三日ゴルフ場に対する大盛起業及び日本ゴルフ振興の支配を排除するため大阪地方裁判所に仮処分申請をし(当庁昭和五八年(ヨ)第七六八号立入禁止等仮処分申請事件)、同裁判所は昭和五九年二月六日本件救済命令に認定のとおりの決定をした(以下「経営権仮処分決定」という)。経営権仮処分決定の執行後、原告は、ゴルフ場を従前どおり経営することとなった。

(4) 原告は、昭和五九年二月一四日経営権仮処分決定の執行当日大盛起業に移籍していた全従業員に対し、口頭及び文書にて、原告への復帰を要請した。これに対し大盛起業は、全従業員に対し自宅待機命令を発して即時帰宅を命じ、小川ら従業員は直ちにこれに従って帰宅したが、管理部に属していた従業員二二名は原告の要請を受けて翌日原告に復帰した。しかし、その余の従業員は直ちには原告に復帰しなかった。

そこで、原告は、同年二月一五日から連日キャディ組合の組合員及びその余の従業員らに話し合いを求め、同年二月一八日には従業員らに対し、二月二二日までに復帰するように口頭及び文書で要請した。しかし、右従業員らはそれでも右期日までに復帰せず、話し合いを重ねた結果、従業員らの不安は、将来本案判決によって経営権の主体が替わった場合における身分関係の不安定及び従前の給与の確保についての不安にあることが明らかになった。これに対し、原告は、身分関係の不安定の点について、原告は将来大盛起業が勝訴したときに従業員らが大盛起業に行くことに異議はないし、また原告が勝訴したときには原告は従業員らを受け入れることを約束する旨を文書にして交付した。

この間、原告のゴルフ場の運営の実情は人手不足のため困難を極め限界に達しつつあったので、原告は遂に、本件救済命令に認定のとおり、同年三月七日文書で三月一五日までに復帰するよう申し入れをし、それまでに復帰しないときは再雇用を諦め新規募集をするとの最後通知をした。しかし従業員らはそれでも復帰しなかった。

(5) 一方、大盛起業は、経営権仮処分決定の執行の翌日である同年二月一五日からゴルフ場内の来場者用の食堂及びコース内の三か所の売店(従前から大盛起業が経営していたもの)を閉鎖して、原告の営業を妨害する挙に出、この閉鎖は同年四月五日大阪地方裁判所で和解が成立するまで続けられた。また、原告は、経営権仮処分決定の執行後直ちに大盛起業に対し話し合いを求めたが、大盛起業は、代表者の日程の都合がつかないことを理由になかなか話し合いに応じず、ようやく同年二月二八日に話し合いがもたれたものの、大盛起業は、第一回目は顔合わせだけにしたいと固執したため実質的な話し合いに入ることができず、その後は原告の申し入れに応じようとはしなかった。このように従業員に対し自宅待機を命じ、食堂等を閉鎖し、原告の話し合いの申し入れにも応じないという大盛起業の行動・姿勢は、原告への嫌がらせ、営業妨害を目的にしたものにほかならない。

(6) キャディ組合に所属するキャディは、原告が期限を切った同年三月一五日までに復帰しなかった。しかし、キャディ組合は、期限前の三月一三日被告に原告及び大盛起業を相手方としてあっせんの申立てをした。

原告は、右あっせんに応じてキャディ組合と地労委において話し合った結果、キャディ組合が真摯に復帰を考えていることが判り、被告のあっせんに応じて復帰して貰うことにし、その旨を被告に伝えた。しかし、そのときになって大盛起業は、キャディ組合に属するキャディだけではなくその余の従業員も一緒に原告へ復帰するのでなければあっせんには応じられないと主張しはじめた。これに対し原告は、「キャディ組合とは被告のあっせんを通じて話し合った結果同組合の復帰の真意が判ったが、その余の従業員についてはあっせんの申立てもしておらず、その真意もよく判らないので、話し合った上で真摯な復帰の気持ちが判れば復帰して貰っても良い。しかし、ゴルフ場は緊急に従業員を必要としているので、まず真意の判ったキャディ組合に直ちに復帰して貰い、その余の従業員とは直ちに話し合いを始める。」という考えを示したが、大盛起業は頑なに右主張を譲らなかった。

このような状況のなかで、後に述べるとおり、その余の従業員(その間組合を結成する)はゴルフ場へ押しかけ諸施設を占有する暴挙に出るに及んだのである。同人らのこれらの行動は復帰したいという真摯な意思がないことを明白に示すものであったため、原告は同人らの復帰を拒否せざるを得なかった。かくしてあっせんは不調となった。

(7) あっせん不調の後も原告はキャディ組合と話し合い、キャディ組合所属のキャディには同年四月一六日から原告に復帰して貰うこととなった。しかし、後に主張するとおり補助参加人の妨害行為により復帰は遅れ、実際には復帰は四月一八日となった。これに対し、大盛起業は、「倶楽部側従業員としての地位を取得されながら、なお、当社の従業員としての地位をも保有されることは認めることは出来ません。」として退職届の提出を求め、退職届が提出されなかったため、同年四月二五日をもって復帰したキャディを全員解雇した。

(8) 管理部門の従業員及びキャディ組合所属のキャディらを除くその余の従業員は小川らを代表として原告と何度も話し合った。小川らの要求は、一貫して、大盛起業は退職しない、大盛起業の従業員の身分のまま出向という形で働かせろというものであった。これに対し原告は、小川らに対し、原告と大盛起業とがこのような状態にあるときに大盛起業に身分のある従業員を受け入れることはできない、身分に不安を感じるのなら、原告と同様に、大盛起業が将来勝訴したときは従業員としての身分を保障する旨の文書を大盛起業に要求するようにと回答したが、小川らは、大盛起業には何も要求せず、原告にのみ出向要求を呑めとの一点張りであった。

小川らその余の従業員は、この間同人らが大盛起業の従業員であり、原告の従業員でないことは自明の理としていた。原告への申し入れ書にも、「私達は、大盛起業株式会社の雇用下にあります」と述べていた。

(9) 小川らその余の従業員は、昭和五九年三月一六日大盛起業の柿本常務の指示で「大盛起業労働組合」なる組合を結成した。組合員は、前記の通り昭和五八年四月ころ大盛起業に移籍するに際し、労働組合を結成しないと約束していたから、これが大盛起業の意思と無関係でないことは明らかである。この組合の委員長には、支配人という職制にありながら小川が就任していた。

(10) 組合員は、昭和五九年四月二日ころ柿本常務の紹介で全員が合労に加入した。そして、翌四月三日合労は、原告に対し、一方的な強制就労の申し入れをしてきた。すなわち、補助参加人(合労)は、「大盛起業と総評大阪一般合同労働組合の確認に基づき大盛起業の従業員として原告に出向し、自分達の職場に就労することを通告」してきた。そして、実際に本件救済命令に認定のとおり四月四日から、連日大挙してゴルフ場へ押しかけ、原告が来場者の食堂として新設していた場所を占拠し、ゴルフ場の入口、進入路、クラブハウス正面、ベランダ、コースの要所要所等数十か所に組合旗を立てた。右申し入れを見ても明らかなごとく、大盛起業は、ゴルフ場を事業場としてこれを占有している原告の意思とは全く関わりなく組合員を勝手に原告へ出向させることを決めているのである。これが「出向」などではなく一方的な押しかけであることはいうまでもない。

(11) 補助参加人は、昭和五九年四月八日の午前六時ころから組合員他約八〇名を動員してゴルフ場への唯一の進入路の途中にある幅四、五メートルの第一ゲートを閉鎖した。従業員らは午前七時ころから順次出勤するのであるが、従業員の一人は補助参加人のうちの二、三人に顔面を殴打され全治一〇日間の負傷を負った。午前七時半ころからは、クラブハウスへ行こうとする来場者、従業員の数が一段と増加し、午前八時ころには車は数珠つなぎとなり国道一六三号線にまで達し、大渋滞を招いた。来場者等は補助参加人に開門を迫ったが、補助参加人は恫喝してこれに応じず、遂に警察が出動して補助参加人の説得にあたった。来場者の中にはプレイを諦めて帰る者も出てきたし、開門を迫る来場者にも補助参加人は暴力、暴言をもって応じ、原告の会員はこのため負傷もした。補助参加人は、警察の説得にもなかなか応じなかったが、午前八時三〇分ころ四条畷警察署の巡査が補助参加人に対し、これ以上閉鎖を続けるなら威力業務妨害罪で検挙すると通告したため、ようやく閉鎖を解いた。来場者は二時間以上も遅れてやっとゴルフをすることができたのである。

原告は、補助参加人のこの行動を威力業務妨害罪で告訴したが、後に起訴猶予処分になった。

(12) 昭和五九年四月四日から八日までの組合員の妨害行動をみて、原告は、同年四月一〇日大阪地方裁判所に立入禁止の仮処分申請をせざるを得なかった。ところが、組合員らに対し立入禁止の仮処分が出た後も補助参加人の行動はやむことがなかった。

連日、まず午前七時三〇分ころ鉢巻きを締め、ゼッケンを胸につけた五〇名位の補助参加人所属の組合員がクラブハウスに集合し、横断幕を掲げ、たむろして来場者を威嚇してから、シュプレヒコールをあげ、拡声器でゴルフ場全域まで届くような大声で原告を非難する演説を行い、最後にデモ行進に移り、クラブハウス前はもとよりゴルフ場内の道路を走り回った。このような状態は午前一一時ころまで続いた。

土、日、祝日には、オルグを加えて動員人数は一〇〇名近くに膨れ上がり、補助参加人所属の組合員の気勢はますます上がり、前記の行動は一層激しさを増し、警官の静止にもかかわらずクラブハウス内に突入しようとし、実際にも営業中のクラブハウスへ再三侵入して原告の業務を妨害した。

また、キャディ組合所属のキャディらの就労をも連日妨害した。キャディらの乗車する通勤のバスを立ち往生させ、就労するなと叫び、プレイヤーに随伴して業務中のキャディを口汚く罵ったりしたので、原告はキャディの進路を変更せざるを得なかった。

補助参加人はゴルフ場の進入路からクラブハウス等に至る所に多数の組合旗、看板も立てた。

(13) 原告と大盛起業との間の経営権仮処分決定は、大盛起業に自己の事務を執るためにのみクラブハウス事務室を部分的に使用することを認めていたが、大盛起業は原告に無断で右部分を組合員に、こともあろうに組合事務所として貸与した。大盛起業と大盛起業労働組合との貸与協定書の日付は組合結成当日の昭和五九年三月一六日、合労とは同年四月二日になっているが、これは明らかに経営権仮処分決定に違反するものであり、これが原告の営業を妨害するためのものであることは明らかである。現実に、補助参加人組合員は、昭和五九年四月一八日組合事務所で仕事をすると称してオルグを交えてクラブハウス内の事務所に乱入し、警察の出動で排除されたことがある。

(14) 補助参加人のこれらの行動により、ゴルフ場への来場者数は激減し、原告の経営内容は悪化した。補助参加人の妨害行動が始まった昭和五九年四月から一応これが止まった同年一二月までの間の来場者数は、前年の同期間と対比して三三五八名も減少した。

(15) 組合員のこれらの行動について大盛起業はなにも制止等をしなかったばかりか、組合員が原告の占有下にあるゴルフ場へ強制就労することも認めた。組合員が大盛起業の従業員であること自体は誰も否定しなかった事実であり、大盛起業が自らの従業員に対して指揮監督権を有していることも明らかであるから、自分の従業員が原告が占有している職場へその反対を押し切ってデモ等の行為をして原告に甚大な被害を与えていることに対しては、大盛起業は中止を命令しさえすれば済むことであったのに、原告の申し入れにもかかわず、これを一切無視したのである。このことは、補助参加人の行動がすべて大盛起業の意思に基づくものであることを如実に物語っている。

(二) 被告の判断について

(使用者性について)

(1) 以上の事実関係によれば、原告の従業員は、昭和五八年三月三一日原告を任意退職のうえ、原告を排除してゴルフ場を支配した大盛起業に翌四月一日から雇用されるようになり、その後経営権仮処分決定の執行によって昭和五九年二月一四日ゴルフ場の経営権が原告に戻り、原告がこれら元従業員に対し、最終的には同年三月一五日までに大盛起業を退職して原告に復帰することを要望し続けたにもかかわらず、元従業員は大盛起業の従業員のままでいる道を選択して原告の要望を拒否したものというべきである。そして、元従業員(ただし、キャディ組合所属のキャディら及び復帰した管理部の従業員を除く)は、一部従業員とともに、その後合労に加盟して組合員になり、原告に対し、大盛起業の従業員の身分のままでゴルフ場で就労させることを求めて前記のように大盛起業のために妨害行動をしているものである。

(2) ところで、労働組合法は、使用者の定義をしていないが、労働契約上の当事者として労働者を雇用する者が使用者にあたることはいうまでもなく、このような典型的な使用者概念を中心にしながら、労働組合法上の使用者は不当労働行為の類型ごとに弾力的にその範囲を確定すべきものとされている。しかし、このように拡張された使用者概念のもとにおいても原告は次に主張するとおり使用者といえないのである。

(3) 現に雇用関係はなくとも過去に労働契約が存在する場合、あるいは、近い将来に労働契約関係の存在が予定されている場合に、それぞれ使用者にあたるとされることがある。前者の例として、被解雇者の団体が従前の使用者に対して解雇問題について団体交渉を申し入れた場合に被解雇者が解雇の効力を争っているかぎりその範囲で労働関係の存在が認められた事例がある。また、後者の例として、企業合併に絡んで、合併後使用者になることが予定される会社が被吸収会社の労働組合や組合員に対して行う不当労働行為について合併後存続が予定されている会社が使用者とされた事例がある。

しかし、前者の例においても、解雇された労働者が他の会社に就職した場合には、その労働者との関係において、もはや解雇した使用者が労働組合法上の使用者にあたらないことに異論はあるまい。たとえ過去に労働契約関係があったとしても、その労働者が現に別の労働契約関係に入っているときは労使関係の健全な発展を目的とする労働組合法の守備範囲は、現在の使用者との関係に限られるのが当然だからである。後者の例についても、被吸収会社の労働者が自ら退職して他の会社に就職した場合に、その労働者との関係において、合併後存続する会社が使用者にあたらないことも異論がなかろう。この場合には、そもそも近い将来に労働契約関係に入る可能性がないからである。

これを本件についてみるに、組合員のうち一部従業員を除く者は昭和五八年三月三一日原告を任意退職するまでは原告の従業員であったが、合労も自認しているように、現在は大盛起業の従業員である。したがって、原告と過去に労働契約関係があったとしても現在大盛起業という使用者がある点において右の事例とは全く様相を異にし、この面から原告を使用者と見ることはできないというべきである。

(4) 次に社外工との関係で派遣先企業を使用者と認めた事例のように、直接の雇用関係はなくとも、子会社の従業員との関係において、親会社が使用者と認められるか否かが問題とされるような類型がある。

本件についてみれば、原告と大盛起業の間には昭和五八年二月以降経営権紛争があり、経営権仮処分決定も存在する等両者の間には熾烈な争いがあるのであるから、このような対立関係にある原告と大盛起業とが親子会社関係もしくはこれに類似した関係にないことは明らかである。したがって、この意味においても、原告を労働組合法上の使用者と見ることはできない。

(5) 本件においては使用者概念をいくら拡張しても原告を使用者と見ることはできない。前記の通り、原告は、元従業員全員に対して復帰を要望し続け、人手不足でゴルフ場の経営に支障を生じるので、やむなく昭和五九年三月一五日に期限を切って最終的な要望をしたが、元従業員はこれに応じなかったばかりか、組合員らは大盛起業の指示により、合労支部を結成して、就労闘争と称して原告の営業を実力で妨害する行動に出たのである。このような組合員らの行動は大盛起業の活動そのものというべきであって、本件は労働組合法の守備範囲を越えた問題というべきである。

(団体交渉の拒否について)

(6) 団体交渉の場所は、本来的には、労使双方の合意により定めるべきものであり、合意が整わない場合には、一方の提供した場所が他方にとって不利益でなければ、これをもって団体交渉の拒否とすることはできないというべきである。しかるに、本件救済命令は、この点についての判断を全くしていない。

(7) 本件救済命令も認定しているとおり、合労の原告に対する団体交渉の申し入れは、すべて団体交渉の場所としてゴルフ場のクラブハウス内を指定するものであった。

しかし、この団体交渉場所の指定は、まず、経営権仮処分決定に違反するものである。経営権仮処分決定は、大盛起業等のゴルフ場に対する占有を解きこれを大阪地方裁判所執行官に保管させたうえで原告にその使用を許すというものであるが、大盛起業は法人であるから、執行時までゴルフ場を占有してきたのは自然人たる役員または従業員(占有補助者)の具体的な占有を通じてであって、この大盛起業の占有を解くということは、占有補助者たる従業員等の占有を解くことにほかならない。したがって、執行後は大盛起業の従業員はゴルフ場に立ち入ることを禁止されていることを意味するものである。

この団体交渉場所の指定は、第二に、立入禁止の仮処分に違反するものである。前記の通り補助参加人は、昭和五九年四月四日から原告に対する営業妨害活動を開始し、四月八日からは一段と激しさを増し、原告のゴルフ場営業に甚大な損害を与えた。立入禁止の仮処分はこのような補助参加人の行動を防止するためになされたのであり、この仮処分の対象から補助参加人の団体交渉の交渉要員を除外すれば、補助参加人においてこれを奇貨として団体交渉に名を借りて妨害活動をすることが容易に推測できる状況が存在していたのである。現実に右仮処分の後も補助参加人の行動はやむことがなく、裁判所の命令は補助参加人によって無視され続けたのである。このようなときに団体交渉のための要員として立ち入ることが許されるとすることは、実態を無視した判断というほかはない。

この団体交渉場所の指定は、第三に、原告の営業が客商売であるゴルフ場の営業であることからすると、客の参集するクラブハウス内を団体交渉場所とすることは営業上の観点からも不適当である。

(8) これに対し、原告は、本件救済命令に認定のとおり、大阪府青少年会館や被告肩書地の大阪府立労働センターを団体交渉の場所として指定していたが、これらの場所は、交通至便の地にあること及び組合員は当時ゴルフ場で就労していなかったことからすると補助参加人にとって不利益な場所ではない。また、原告は、これらの場所に固執したわけではなく、補助参加人がクラブハウス以外に適当な場所を申し出ればこれに応じる用意があったのである。

(9) 前記の通り補助参加人の一連の行動は、原告の営業活動を妨害する目的でなされたものであるところ、補助参加人は、原告がクラブハウスでの団体交渉に応じるはずがないことを知悉していた。そこで、敢えてクラブハウスでの団体交渉に固執し、これに応じない原告に対しそのことを口実に妨害行動を行ったのである。補助参加人は、問題解決のため真剣に交渉を求めていたのならばクラブハウスにこだわる必要はなく、補助参加人に不利益を強いるような場所でないかぎり交渉の席についたはずである。補助参加人にはクラブハウスでなければならない理由は全くなかったのである。

五  補助参加人の主張

1  使用者性について

(一) ゴルフ場の従業員は、ゴルフ場開設以来ゴルフ場を就労場所としてきた。従業員の雇用は、面接を支配人(原告の立場と思われる)が行い、常務理事、常務取締役等が順次決済印を押して採用を決定してきたものであり、また、大盛起業の仕事と原告の仕事は明確に区別されてもおらず、ただ仕事の性質上の違いから勤務場所の違いがあったにすぎない(キャディはコース、経理処理はクラブハウス内事務所、飲食関係はクラブハウス内食堂、コース売店というように)。そして、日常の従業員に対する指揮命令は大屋政子(もと原告理事長兼大盛起業代表取締役)をはじめ支配人その他から発せられ、従業員は両者の監督下で就労してきたものである。このような実態は否定すべくもないと思うが、要するに大盛起業と原告が一体として使用者の立場に立ち、従業員はゴルフ場で働く意思でゴルフ場に採用され、実際の日常業務の指揮命令は、原告と大盛起業の双方が行ってきたものである。もっとも、採用の時点で、キャディは原告の従業員、その他は原告かあるいは大盛起業の従業員という一応の基準があったようであるが、人事・労務管理は、一体的混合的に行われてきたのである。

従業員採用の辞令が原告名義で発せられたり、大盛起業名義で発せられたり、また、全員について身分の切り替えがなされたり、また元に戻るということが従業員の了解を得ることなく実施されてきた事実もあり、これらのことを考えると、これは、企業間の人事異動の一つの形態である出向と見るか配転と見るかは別論として、原告と大盛起業の間では当然の了解事項であったと見るべきである。二つの企業が同一事務所でゴルフ場経営という共同目的のもとに結合していたと見られる本件では、それはさしたる問題もなく行われてきたものであろう。逆にこのことは、少なくとも従業員に対する関係では、原告と大盛起業が一体として雇用主・使用者の立場にあったことを物語っている。

右のごとき労働契約関係は、見方を変えれば、二重の労働契約の併存関係と見ることもでき、日常の指揮命令・監督関係の実態から見て、両者が使用者として存在し、両者があいまって初めて通常の労働契約における使用者たる地位にあったとも考えられる。したがって、原告の主張するような「従業員の任意退職」時までは原告のみの従業員であったという単純な関係ではなかったのである。

(二) 原告の主張によれば、原告の元従業員は昭和五八年三月三一日原告を任意退職し、翌四月一日大盛起業と雇用関係を結んでその従業員となったとされる。しかし、従業員は従来どおり働いてきただけであって、新しく大盛起業と雇用関係を結んだことはない。法的には従来の労働契約関係の確認があっただけである。原告と大盛起業間の経営権紛争の中で労働者が自己の身を守るための行動として、労働条件の確保を約した大盛起業のもとで従来どおり働いてきたことを任意退職というのは、余りに形式論にすぎる。組合員の立場からいえば、従業員に対する指揮命令系統がいわば一本になったにすぎない関係である。形式的にいえば、原告に退職届を出していないのであるから、従業員は二重の地位を有するといえるし、実体的に見ても従業員の地位に変動はなかったのである。大盛起業ないし日本ゴルフ振興が、原告によると経営を支配するようになったとき、大盛起業は従来どおり働いて貰いたいと労働条件の確保を約したけれど、原告は、保証できないとして責任を放棄したうえ、更に、従業員に対し、大盛起業の経営支配状態下でそのまま働くかどうかを従業員の判断に委ねたのである。従業員の去就をその判断に委ねた以上、原告は、従業員が大盛起業との労働契約を確認的に顕在化させその指揮命令・監督下で就労するという法律関係を認めたことになる。そして、この法律関係は約一年間にわたって続くことになったわけであるが、経営権仮処分決定によって原告に経営権が認められても、原告は、その関係が自分が認めた法律状態であるだけに、少なくとも本案判決で事案の最終的決着がつくまでの間、従業員の処置に関しては発生した法的状態をそのまま受け入れる信義則上の義務があるというべきである。組合員は、大盛起業に身分を置きつつ原告に出向する旨の意思を表明しているが、原告はこれを受け入れなければならない立場にあるのである。

大盛起業と原告がゴルフ場の管理運営を共同して行ってきた内容を見ると、こと従業員に関していえば、その身分関係の帰属名義の如何を問わず原告と大盛起業から直接・間接の監督を受けてきたのである。これを法的に見れば、原告名義の従業員は大盛起業に出向して大盛起業の指揮命令を受け、大盛起業名義の従業員は原告に出向して原告の指揮命令を受けていた関係と見ることもできるのであるが、実体に即してみると、ゴルフ場の管理運営が共同して行われ、従業員に対しては共同使用者として二重の労働契約関係の併存する形になっていたと考えられるのであり、大盛起業と原告の経営権紛争が法的に確定した段階で、従業員が一方を整理して他方と独自の労働契約を締結するというのは従業員の自由に決定しうる問題であって、経営権の帰属を争うものの一方が法的に未確定の状態で従業員に対し強制できる筋合いのものではない。共同使用者の立場にあった原告と大盛起業の何れに経営権が認められようと、経営権と矛盾しない範囲で組合員は大盛起業と原告に雇用責任を追求できる立場にある。

2  団体交渉の場所について

原告は、立入禁止の仮処分がある場所での団体交渉は不都合であると主張するが、右仮処分があってもそれはいわば営業妨害的立ち入りの禁止が規範的意味だろうし、団体交渉のための立ち入りを原告が認めたからといって仮処分の効力が問題になるということはないであろう。

原告は、団体交渉をわざわざクラブハウスで開かなくてもどこでもいいではないかと主張する。しかし、補助参加人としては、働く場所で団体交渉を開くのが労働組合の団結のためにもふさわしいと考えているのであるから、原告こそ応じれば済むことである。あの広いクラブハウスのどこかで団体交渉をして不都合な理由は何一つない。現に、キャディ組合とはクラブハウス内で団体交渉を開催しているのに、どうして補助参加人とはクラブハウス内で団体交渉して不都合なのか補助参加人にはよくわからない。

六  補助参加人の主張に対する原告の反論

補助参加人は、組合員の身分が現在大盛起業にあることをはっきりと認めながら、その上で原告には出向の受領義務があると主張するが、出向は、本件についていえば、原告、大盛起業、組合員の三者の合意があって初めて生じるものであり、原告は、そのような申し入れを受けたことはなく、まして同意したことなど一切ない。組合員は昭和五八年三月に原告が大盛起業のもとで身分保障して貰ってよいと認めた、むしろ見放したとして出向受領義務があるとするもののようであるが、そのような事実もない。出向案は、従業員を支配下に置き従業員を盾にして原告との紛争を有利に解決しようという大盛起業の狙いによるものであることは明白である。

第三証拠(略)

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求原因1の事実及び本件救済命令中の「第1 認定した事実」のうち、次の事実は当事者間に争いがない。

1  「当事者等」のうち補助参加人の組合員数及び合労支部の組合員数を除くその余の事実

2  「ゴルフ場の運営等について」のうち、(1)の事実、(2)のうち「その後は倶楽部常務理事の職にあり、かつ大盛起業常務取締役の職にあるものが就任しており、」とある部分を除くその余の事実及び(3)のうち「その採用の可否は倶楽部及び大盛起業の双方によって決定され、」とある部分を除くその余の事実

3  「五八年二月以降における労使関係について」のうち、(1)の事実、(2)のうち鉄村某が原告副理事長として紹介等したとある部分を除くその余の事実、(3)の事実、(4)のうち「大盛起業から従来の労働条件を維持するとの確約をとりつけ、業務に従事した」とある部分を除くその余の事実及び(5)の事実

4  「五九年二月以降における労使関係」のうち、(1)ないし(3)の事実、(4)のうち未組織従業員に関する部分を除くその余の事実、(5)、(6)、(8)及び(10)の事実、(11)のうち支部結成を通知した事実並びに(12)ないし(24)の事実

二  右争いのない事実並びに(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、右認定に反する(証拠略)は、右各証に対比しにわかに信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  昭和五八年二月下旬ころ原告と大盛起業・日本ゴルフ振興との間に経営権紛争が発生し、日本ゴルフ振興は、その取締役及び従業員を原告の事務所に派遣・常駐させて原告の占有を実力で排除し、原告の預金通帳、代表印等をも占有したうえ、ゴルフ場の経営を全面的に掌握した。

この事態に対して、大門正輝理事長を中心とする原告の理事会新執行部は、同年二月の終わりから三月の初めにかけて二回にわたり小川を代表格とする従業員らと話し合いの機会を持った。この中で原告は、今回の事態に対し、「原告としては経営権を取り戻すため大阪地方裁判所に仮処分申請をする。仮処分決定が出るまでに長期間を要しないと予想されるので、従業員らは原告の指示に従ってほしい。ゴルフ場の営業収入を原告に引き渡してほしい。」旨を求めた。しかし、従業員らは、仮処分申請をすることについてはこれを了解したが、ゴルフ場に常駐する大盛起業(日本ゴルフ振興)からの業務指示と原告の業務指示とが競合した場合に何れの指示に従うのか判断できないこと及び原告は現実にゴルフ場の経営から排除されているので給与支払についての不安があることを理由に原告の求めを拒否した。

他方、大盛起業は、従業員らに対し、従前の労働条件を保証するとして従来どおり働くことを求め、同年三月の初めころには従業員らの身分を原告から大盛起業に切り替えるよう求めた。そこで、小川を代表格とするクラブハウス関係従業員及びキャディのうち一〇名の者は、大盛起業と交渉のうえ、同年四月二日大盛起業との間で、大盛起業は従前の労働条件を保証する旨の確認書に調印し、大盛起業の従業員として就労することにした。右確認書中には、「労働条件等が現行のまま継承する限り、労働組合の結成等の争議行為は厳に慎むこと」という条項があった。その余のキャディらは、このような条項のある確認書締結に疑問を持ったこと及び過去における小川の言動に対する不信の念からこの確認書に調印せず、同年四月六日キャディ組合を結成し、大盛起業と交渉のうえ、従前の給与、労働条件の維持、継承についての協定書を結び、大盛起業の従業員として就労することにした。なお、クラブハウス関係従業員は、その後キャディ組合に対抗する形で従業員会を、前示一〇名のキャディらは、互助会をそれぞれ結成している(小川はこの両者の主導的地位を担っていた)。そして、大盛起業は、小川をして、従業員らの労働保険、健康保険、厚生年金及び雇用保険関係について、同年五月ころ、原告の全従業員は同年四月一日から一三日の間に原告を退職して大盛起業へ就職した旨の届出を所管の行政庁になさしめ、更に、原告の事業所廃止の手続をも関係行政庁にさせた。

かくして、原告の従業員らは、これ以降大盛起業の指揮命令下に入り、原告の指揮命令系統から離脱した。

2  原告は、大盛起業・日本ゴルフ振興のゴルフ場に対する実力的支配を排除するため、両者を被申請人として、直ちに大阪地方裁判所に仮処分の申請をし(当庁昭和五八年(ヨ)第七六八号立入禁止等仮処分申請事件)、同裁判所は、昭和五九年二月六日大盛起業・日本ゴルフ振興に対し、経営権仮処分決定を行った。なお、この決定においては、ゴルフ場のクラブハウス食堂及びコース売店は、もともと大盛起業の占有下にあったことから執行官保管の対象から除外され、また、執行官は、原告のゴルフ場使用の妨げとならない範囲内で大盛起業が自己の事務を執るためクラブハウス事務所を使用すること並びにクラブハウス食堂及びコース売店の営業をするためそこに至るための通路を使用することを許さなければならない旨の主文も含まれていた。

3  昭和五九年二月一四日経営権仮処分決定の執行が行われた。原告は、当日、従業員らに経営権仮処分決定の趣旨を説明して直ちに原告に復帰して貰うため、従業員の皆様へと題し、経営権仮処分決定の内容及び「今後の倶楽部の経営、運営には皆様のご協力が必要です。どうか倶楽部に戻って以前と同様に働いていただきたいのです。倶楽部に協力できない方は仮処分決定の趣旨からいって残念ながらゴルフ場にきていただくことはできません。」と記載した書面を配布して、従業員に対し説明をしようとした。ところが大盛起業の柿本常務取締役は、従業員らに対し、原告の話を聞くのであれば大盛起業に対する辞表を提出してからにしろと申し向け、併せて自宅待機命令を発したため、大半の従業員は帰宅し、原告は従業員らに十分な説明をすることができなかった。しかし、ゴルフ場のコース管理を分掌する管理部の従業員は原告の説明を聞き、翌日から原告に復帰することになった。

また、原告は、仮処分決定により経営権が認められたことから、従業員問題を含む当面する諸問題について大盛起業と話し合いを行うため、柿本常務取締役にその旨申し入れたが、柿本は、本日は混乱しているので明日にしてほしい旨を述べ、翌日原告が更に申し入れをすると、二、三日後に大盛起業の常務会が開かれその場で結論が出るのでそれまで待ってほしいと述べ、原告が数日後常務会の結果を問い合わせると、結論が出なかったので大盛起業と原告のトップ会談をしてほしいと述べた。その日程については大盛起業側はかなり先の期日を申し入れ、話し合いの時期を引き延ばそうとしたが、原告が早期に行うよう強く求めたので、その結果同年二月二八日にようやく会談が行われることになった。なお、大盛起業は、この会談に弁護士が立ち会うことを拒否した。

4  大盛起業は、同年二月一五日、前示のとおり経営権仮処分決定においてはゴルフ場のクラブハウス食堂及びコース売店三か所が執行官保管の対象から除外されていたことから、これを奇貨としてこれらを閉鎖した。このため、原告は、クラブハウスのロビー及び従業員食堂を臨時に改装して食堂とし、仕出し弁当を来場者に提供して事態に対処し、かつ、大盛起業、日本ゴルフ振興及び大盛起業の委託を受けてこれらの食堂及びコース売店を営業していた株式会社ロイヤルを被申請人として、大阪地方裁判所に対し、クラブハウス食堂及びコース売店三か所並びにこれらの附属設備に対する執行官保管、債権者使用を求める仮処分申請を行った(当庁昭和五九年(ヨ)第八一八号事件)。右事件は、同年四月五日大盛起業及び株式会社ロイヤルが同年四月八日から営業を再開する旨の和解成立によって終了し、ようやくクラブハウス食堂及びコース売店三か所の営業が再開されることとなった。

5  キャディ組合は、同年二月一五日所属する組合員の全員集会を開催し、翌一六日には互助会メンバーをも含めて集会を開き、対応を協議した。そして、キャディ組合としては、原告及び大盛起業のどちらにも加担せず組合の自主性・独立性を貫くこと、従業員の雇用責任は原告と大盛起業の双方にあるので両者が一日も早く話し合いをするように要求すること、原告は法人組織ではないので理事の個人保証を明確にさせることを決定し、互助会に対しては、キャディ組合に加入するよう呼び掛けた。これに対して、互助会は、同年二月一八日キャディ組合に加入しないし共闘もしないと回答した。そして、キャディ組合は、同日大盛起業と交渉し、自宅待機中の給与支払の保証を合意し、かつ一日も早く原告と話し合いをするように強く求めた。

6  原告は、経営権仮処分決定が発令された場合には従業員らは直ちに原告に復帰してくれるものと考えていたため、従業員らに対し、経営権仮処分決定執行後様々な手段で原告に復帰するよう説得したが、管理部の従業員二〇数名を除いては予想に反して復帰を得られなかったので、同年二月一八日「早く倶楽部に戻って仕事をして下さい。我々は何ら今までと変わる事なく皆様に仕事をして頂きますし、将来にわたって、皆様に給料その他でご迷惑のかかる事は致しません。……皆様からこの二月二二日までに、元に戻って働くと意志の表示の無い場合は、倶楽部としては新しい従業員を募集して再出発をしなければなりません。……それ以降に就業のお申し込みがあっても、皆様の今迄の仕事が新しい人によって行われているので、残念ながらおことわりしなければならない場合もあるかも知れません。……あなたの意志表示はクラブ事務所(入交常務)までお知らせください。」と記載した文書を従業員各人に郵送した。しかし、従業員らはそれでも原告に復帰しなかった。

7  従業員らは、同年二月二二日原告と交渉を行ったが、キャディ組合の要求は本件救済命令に認定のとおりであった。他方、小川を中心とする従業員会及び互助会に所属するその余の従業員は、原告に対し、「現在、私たちは大盛起業(株)の雇用下にあります、……ご送付を受けました文面にあります通り、会社との雇用契約を一方的に無視して、各自がバラバラの行動を起こした時の混乱と、これよりスタートする裁判のなりゆきによって、昭和五八年春及び今味わっているような不安がいつまでも残るように思われます。従って先ず私たちの雇用主である大盛起業と話し合って解決下さる様お願い致します。」と記載した書面を交付して、大盛起業と話し合うことを要求し、また大盛起業の従業員のままで原告に出向して就労することを要求したが、原告は出向の要求は問題にもならないとしてこれを拒否した。この日の交渉は、同年二月二八日に原告と大盛起業とのトップ会談が予定されていたことから、結局その結果を待つ形で終了したが、従業員らの不安は、今後の裁判の結果により身分関係が変動した場合における雇用不安と原告が従前の給与等の労働条件を確保することができるのかどうかという点に集約された。

8  同年二月二八日原告と大盛起業のトップ会談が行われた。しかし、大盛起業側は、本日は顔合わせであり、実質的な話し合いはこの次にしたいという対応で、雑談に終始し、原告が従業員問題等の当面する諸問題を提起しようとしてもこれを受け付けなかった。そして、次回の期日も結局決まらないままとなったので、原告は大盛起業との話し合いで従業員問題を解決することは難しいと判断し、従業員に対して早期に直接その決断を求める方針を固め、同年三月七日付けの復帰申し入れを行った。この復帰申し入れは従業員各人に文書を送付して行われ、その内容は、本件救済命令が<1>ないし<4>として認定しているものの他に、今回の経営権仮処分決定の内容、右仮処分決定が取り消される可能性のないこと、大盛起業の従業員のままで原告に出向することが受け入れられない理由、同年三月一五日までに復帰しない場合には新たに従業員を募集するのでこの後は復帰を認めないこと、原告が必ず勝訴すること、従業員らは原告が大盛起業と話し合いをするように要求しているが、大盛起業はこれに応じようとしないこと、しかし原告は右<1>ないし<4>を約束するので、同じ内容を大盛起業からも約束して貰えば復帰の障害はないこと等を記載したものであった。

9  このころ大盛起業は、同年二月一五日から既に原告に復帰していた管理部従業員らに対し、一度原告の従業員となった場合には給与・退職金を保証できないし、今後大盛起業の経営権が認められた場合でも、原告が言うように一度退職した従業員が簡単に大盛起業に復帰できるものではないので今一度よく考えてほしい旨を記載した文書を送り付けた。このような大盛起業の働きかけにより管理部の従業員のうち四名が同年三月一八日に原告を退職して大盛起業に復帰している(その後この四名は合労の組合員になった)。

10  原告の同年三月七日付けの復帰申し入れを受け取ったキャディ組合は、原告が新従業員を募集・採用してしまい同組合員らが職場を失ってしまうことを危惧して、なんとか原告と大盛起業に話し合いをさせるため、公的な第三者機関である被告に対しあっせんの申請を行うことを決め、同年三月一一日小川ら従業員会三役に対しあっせんについて協力を要請した。これに対し小川らは、あっせんの方はキャディ組合に頼むとしてこれに賛成した。そして、同年三月一三日あっせんの申請が行われた。これに対し、原告はあっせんに応じるかどうかは分からないが事情聴取に応じると、大盛起業はあっせんに応じると、キャディ組合に返答した。そして第一回のあっせんは同年三月二八日に行われた。

11  これより先に、従業員会及び互助会所属の小川ら従業員は、稲波英治弁護士を代理人として、同年三月一五日原告に対し、「貴倶楽部と会社とのゴルフ場の経営権をめぐる紛争は、今後相当長期間にわたると思われますので、会社従業員と致しましては貴倶楽部に対し、従業員が安心して働くことができるよう、会社と早急に交渉され、一時的にでも円満解決されますよう強く申し入れます。しかるに貴倶楽部は会社従業員が本月一五日までに職場復帰をしないときは、本採用の従業員を募集する旨表明されておりますが、先にも申し入れましたとおり、貴倶楽部と会社とが誠意を以て話合により解決されるのが先決であり、かようなことを強行されたときには、当方と致しましても生活権を守る立場から、断固たる対抗措置をとるつもりでおりますので、予め御了承下さい。……なお当方会社従業員は本件の事態に対処するため、統一的交渉団体の組織を結成すべく準備中でありますので、今後個別的な会社従業員に対する勧誘は差し控えて戴き、話合いの必要があれば当代理人まで御連絡下さい。」と記載した文書を送付した。そこで、この後原告は、原告の代理人弁護士をして、稲波弁護士と折衝をさせたが、同弁護士の要求は、原告が既に受け入れられないとしていた出向の要求の一点張りであった。

12  従業員会及び互助会所属の小川ら従業員は、大盛起業の関与のもとに同年三月一六日企業内組合である大盛起業株式会社労働組合(委員長には当時大盛起業総務部長兼ゴルフ場副支配人であった小川が就任)を結成するとともに、同日大盛起業との間で、組合事務所貸与協定を取り結び、クラブハウス内事務室の大盛起業の使用部分、ゴルフ場内の社宅の一部及び従業員運転手控室の貸与を受けることになった。経営権仮処分決定においては、前示のとおりこれらの部分は執行官保管と定められており、クラブハウス内事務室の大盛起業の使用部分も自己の事務を執るためにのみその使用を許されていたものであるから、これらを組合事務所として貸与することは経営権仮処分決定に違反する行為であった。また、このころ大盛起業と同労働組合は、同組合が原告に対し出向要求をすることを合意した。

13  大盛起業株式会社労働組合の小川委員長は、同年三月三〇日原告に対し、次の事項につき同年四月一日までに文書で回答を求めるとして、「1 倶楽部側が強行された従業員食堂の茶屋の改造、キャディ互助会並びに女子事務員の休憩室の食堂への転用行為等は従業員無視の著しい越権行為である。2 会社と倶楽部(紛争の当事者責任上)に従業員問題について協議して頂く様申し入れてあるにもかかわらず今だ何の回答もなく、また協議されようとすらされないのはなぜか、3 理事長名で一部従業員に出された確認書(三月七日付)に記されている、給与、退職金の支払保証については具体的な説明を求める、4 私たちは当然の権利を主張し今後毎日自分達の職場へ出勤致します。」と記載された申入書を持参し、大門理事長と面会した。大門理事長は、出向の要求には応じられない、大盛起業の従業員の身分を離れることが復帰の前提である旨の返答をした。

14  同年四月二日大盛起業株式会社労働組合員に所属する従業員らは、柿本常務取締役の紹介で補助参加人に加盟し、大盛起業株式会社労働組合は補助参加人大盛起業支部(合労支部)に移行した。これに伴い、従前同労働組合が大盛起業から組合事務所として貸与を受けていた部分を補助参加人が組合事務所として使用する旨の協定が締結された。そして、補助参加人(今庄書記長、小川ら)は、同年四月三日原告に対し、先に大盛起業株式会社労働組合が申し入れていた事項についての回答が期限の四月一日までになされなかったとして、同内容の申し入れを再び行うとともに、大盛起業と合労の確認に基づき大盛起業の従業員としてゴルフ場に出向し自分達の職場に就労することを通告するとして、就労闘争に入ることを原告に通告した。この出向の要求は、大盛起業と同労働組合との間においては既に三月の中旬ころに合意されていたが、補助参加人は、これを同年四月二日大盛起業との間で再確認し、大盛起業は、これまで出されていた従業員に対する自宅待機命令を解除して、従業員らに対し、四月四日からゴルフ場へ出勤せよと命令した。なお、小川は、従業員会及び互助会所属の従業員らの代表者として、稲波弁護士に原告との折衝を委任していたにもかかわらず、今庄書記長は、稲波弁護士と原告の代理人弁護士との話合いは補助参加人とは関係ないと述べ、一貫しない態度を見せていた。

15  補助参加人は、同年四月四日から連日就労闘争として、原告が来場者用の食堂として臨時に使用していた従業員食堂や同休憩所に、この場所は補助参加人が大盛起業から組合事務所として貸与を受けたものであると称して、入り込んで座り込みを繰り返し、また、ゴルフ場への進入路やクラブハウスに補助参加人の組合旗を八本程度立て、更に、同年四月七日の大阪地方裁判所執行官の点検に際して、執行官が、従業員食堂、同休憩所に入り込んでいた合労の組合員らに対し、この場所は執行官保管の物件であると説明・注意したところ、その場にいた小川は、我々は働くためにここに来て交渉をすると主張して、執行官の注意を聞こうとしなかった。

そして、同年四月八日補助参加人は、その組合員八〇ないし九〇名を動員して、午前六時過ぎころからゴルフ場へ押しかけ、国道一六三号線に通じるゴルフ場の門扉を閉鎖して来場者の入場を阻止した。このため来場者はゴルフ場に入ることができず、来場者の車は、門扉から国道一六三号線にかけて数百メートルも数珠つなぎとなり、交通渋帯を引き起こした。また、補助参加人の集団は、予め補助参加人の行動を予想して待機していた原告側の集団と揉み合いになり、双方に負傷者のでる混乱状態となった。このため、原告は警察官の出動を要請し、四条畷警察署の警察官が現場において整理にあたり、補助参加人は、警察官の警告により、約二時間後にようやく閉鎖を解き、クラブハウスの方へ移動し、クラブハウス前においてビラの配布、デモ行進、シュプレヒコールを行った。原告は、この日の補助参加人の行動について、合労の今庄書記長及び小川を威力業務妨害罪で告訴したが、警察官の警告により閉鎖が解かれたため立件が難しいとされ、両名は不起訴となった。

16  この間、キャディ組合の求めた前示あっせんは、同年三月二八日を第一回期日、四月四日を第二回期日として進行していた。そして、第二回期日には、被告から積極的にあっせん案の提示があった。この内容は、「<1>大盛起業及び原告は、ゴルフ場の経営権についての本案判決が確定するまでの間従業員の身分が仮に原告にあることを確認し、原告は従前の待遇を維持し、給与・退職金の支払を保証する。<2>将来経営権が何れに認められる結果になっても、経営権の認められなかった一方は、従業員が経営権の認められた他方の従業員となることに異議を述べない。<3>経営権の認められた方は、従来と同じ条件で従業員を受け入れる。<4>原告の理事は、従業員に対する給与・退職金等の支払について原告を連帯保証する。」というものであった。原告は、これまでのあっせんにおけるキャディ組合との話し合いから、キャディ組合の就労に対する意欲を見て、基本的にあっせん案に応じる態度を固めたが、大盛起業は、補助参加人所属の従業員を含めた全従業員一括でなければあっせん案には応じられないとの態度であった。これに対し原告は、補助参加人所属の従業員についてはあっせんの当事者になっておらず、就労の意思を確認できていない(原告は、小川を中心とする従業員会・互助会→大盛起業株式会社労働組合→合労支部の一貫した出向の要求や補助参加人の前示の同年四月三日の申し入れから、補助参加人所属の従業員らの就労意欲に疑問を持ち始めていた)、原告はキャディなしの状態を既に一か月半も続けており、全従業員同時ということになると就労意思の確認に更に日時を要するから、とりあえずキャディだけでも直ちに復帰して貰うようにしたいとして、補助参加人所属の従業員との分離処理を主張した。そして、第三回期日は同年四月九日と決められ、キャディ組合及び原告は、この期日をあっせんの山場と位置付けていた。しかるに、この前日に前示のごとき補助参加人の就労闘争が行われたため、翌九日のあっせんは決裂してしまった。被告のあっせん委員は、同年四月四日補助参加人の上部団体である総評全国一般労働組合大阪地方本部の松村勝正執行委員長(同人は補助参加人の執行委員長でもある)に宛て、「あっせんの過程で大盛起業内に貴組合加盟の労働組合が結成された。あっせんを円滑に進め円満解決を図るためにも貴組合として慎重に対処されるよう要望する。」とのあっせん員要望がなされていたが、補助参加人の行動はこれに反するものであり、あっせん員の努力を無にするものであった。

17  補助参加人の四月八日の就労闘争を受けた原告は、補助参加人のゴルフ場への立ち人りを阻止するため、同年四月一〇日大阪地方裁判所に対し、補助参加人、合労支部及び今圧洋樹外三八名の組合員を被申請人として、「被申請人らはゴルフ場及びクラブハウスその他の附属設備に立ち入ってはならない。被申請人らはゴルフ場の営業につきゴルフ場入口を封鎖するなど方法の如何を問わずこれを一切妨害してはならない。被申請人らが右に違反したときは、大阪地方裁判所執行官に、被申請人らをゴルフ場及びクラブハウスその他の附属設備から退去させ、また、同執行官に、被申請人らの営業妨害行為を排除させる。」旨の立入禁止の仮処分申請をし(当庁昭和五九年(ヨ)第一三五八号立入禁止等仮処分申請事件)、同裁判所は、同年四月一一日右内容の立入禁止の仮処分を発令した。しかし、補助参加人は、この仮処分は不当であるし、ある程度の立ち入りは許されるとの理解のもとに、その後もゴルフ場に立ち入って、クラブハウス、ゴルフ場への進入路等の要所要所に多数の組合旗、看板を立て、主として来場者がプレイを開始する午前中の時間を狙って、ビラ配り、シュプレヒコール、ジグザグデモを繰り返し、また日曜、祝日には、補助参加人の動員を含めて五〇ないし六〇名が大挙してゴルフ場に押しかけ、右のような行動をしたり、大盛起業と補助参加人間の組合事務所貸与協定を盾にクラブハウス内に突入しようとして、原告の要請で出動してきた警官隊あるいは機動隊と揉み合う等の混乱を引き起こした。これらの補助参加人の行動は、最終的には、原告を申請人、補助参加人及び合労支部を被申請人とする当庁昭和五九年(ヨ)第二〇四二号不動産仮処分申請事件についての同年一一月二二日付けの、被申請人らに対し、ゴルフ場及びクラブハウスその他附属設備に設置した旗、看板等一切の物件の撤去及び右場所に旗、看板等一切の物件を搬入、設置することの禁止を命じる仮処分決定が出されたころまで続いた。

補助参加人のこの間の就労闘争により、原告の来場者は前年の同期間(四月から一二月)と対比して、約三三〇〇名も減少し、中でも収入の多いビジターは約二七〇〇名も減少した。

18  原告とキャディ組合は、同年四月一六日就労について合意をし、同組合所属のキャディらは、同月一八日から就労することになっていた。しかし、これに対し、補助参加人は、補助参加人に対する裏切り行為である、あるいは片肺協定であるとして、キャディ組合を非難し、キャディらの自宅に電話をかけて恫喝を加えたり、脅迫まがいの言動を行ったりした。このため、キャディ組合所属のキャディらはすっかり脅えてしまい、キャディ組合は、原告に対し、四月一八日は出勤しないと通告した。そこで原告は、翌日の一九日にはキャディらの通勤バスの運行コース上の停車地に原告の会員らを配置し、万一の場合に直ちに警察署へ通報ができるような姿勢を整えて、キャディらの出勤を待った。しかし、補助参加人は、ゴルフ場入口付近において、キャディらの乗車した通勤バスの前に立ちふさがる、乗車して罵る等の妨害行動を行ったほか、キャディ控室へ侵入しようとしたり(キャディ控室は補助参加人が組合事務所として貸与を受けたと主張して度々占拠していた従業員食堂のすぐそばにあった)、待機中あるいはプレイ中のキャディらを大声で罵る等の行動を行った。このような補助参加人の行動によって、原告は、キャディ控室をクラブハウス内の会議室へ移動したり、キャディがコースを回る順路を変更することを余儀なくされた。

19  大盛起業は、同年四月二〇日キャディ組合所属のキャディらに対し、原告の従業員としての地位を取得しながらなお大盛起業の従業員としての地位をも保有することを認めることはできないので、原告の従業員としての就労の継続を希望するのであれば、同年四月二五日正午までに正式な退職届を提出されたい、大盛起業の従業員としての地位の継続を希望される場合は、右同日までに原告の従業員としての地位を辞し就労を中止するよう通告する、万一右同日までに退職届を提出せず就労を継続する場合には解雇する、この場合大盛起業としては今後再雇用その他の身分保障をすることはできないと通告した。これに対しキャディ組合は抗議したが、結局キャディ組合所属のキャディらは、同年四月二八日大盛起業から解雇の通知を受けた。

20  補助参加人は、原告からの度重なる団体交渉の申し入れに対して、原告が以前から大盛起業の従業員の身分を離脱することが復帰の条件であるとの態度を明らかにしていたため補助参加人の要求である出向とは相入れず話し合いにならないと判断していたこと及び原告が団体交渉の申し入れをしているのは裁判対策であると考えたことから、原告がこの前提を改めない限りこれに応ずるつもりは全くなかった。しかし、補助参加人は、原告と団体交渉をするつもりがなかったにもかかわらず、逆に原告に対して団体交渉の申し入れを再三していたのである。なお、団体交渉の場所については、原告は、大阪府青少年会館や大阪府立労働センターに固執する意思ではなく、ゴルフ場以外の場所であって適当な場所であればこれに応じる意思を有していた。

三  使用者性について

原告は、元従業員であった組合員らと原告との間に過去に労働契約関係があったとしても、同組合員らは、現在は確定的に大盛起業の従業員であるというべきであるから、原告は労働組合法第七条二号にいう使用者にあたらない、また、ゴルフ場の経営権をめぐり対立関係にある原告と大盛起業が親子会社関係もしくはこれに類似した関係にないことも明らかであり、この面からしても原告は同号にいう使用者にあたらない、更に、組合員らは大盛起業の指示で就労闘争と称して原告の営業を妨害する行動をしており、このような組合員らの行動は大盛起業の活動そのものというべきであるから、本件は労働組合法の守備範囲を越えた問題であるというべきである旨の主張をするので、以下この点について判断する。

労働組合法第七条二号は、使用者は正当な理由なく雇用する労働者の代表者との団体交渉を拒否してはならない旨規定しているが、同号は、使用者の団結権侵害行為を排除して、これによって生じた事実状態を除去し、もって団結権を擁護するとともに、労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することをその目的とする(同法第一条第一項)ものと解されるところ、右の趣旨に鑑みると、同号にいう使用者とは、必ずしも現に存する労働契約上の雇い主に限られるものではなく、労働契約関係に準じる地位にある者、労働契約関係の継続の有無につき争いのある同契約上の雇い主で労働者の労働関係上の諸利益についてなお支配力あるいは影響力を行使しうる者を含むものと解すべきである。

そこで、これを本件についてみるに、前示の事実によれば、日本ゴルフ振興・大盛起業が昭和五八年二月下旬ころゴルフ場の経営を実力で支配した後に、原告に雇用されていた従業員らが原告の要請にもかかわらず原告の指揮命令系統を離脱し、大盛起業の指揮命令のもとに大盛起業から給与を受けてゴルフ場で就労し、かつ、所管の行政庁に対しても右従業員らは原告を退職して大盛起業に就職した旨の届出がされていることが認められる(これが任意退職になるかどうかについてはそもそも議論の余地がある。)。しかし、原告としては、右従業員が完全に原告のもとから離脱したものと考えていなかった。すなわちゴルフ場の経営権を大盛起業から取り戻すために仮処分申請を行うことを従業員らに説明し、この仮処分決定が出た暁には従業員らは当然原告の指揮命令下に入って再びゴルフ場で就労してくれるであろうと考え、経営権仮処分決定の執行後の昭和五九年二月一四日から復帰申し入れの最終期限ともいえる同年三月一五日まで、従業員らに対し様々な手段で大盛起業を退職して原告に復帰するように要請を続け、同年三月一五日を過ぎても、なお、大盛起業の身分を離脱すれば原告への復帰を認める旨の意向を表明し、実際、同年四月一六日にはキャディ組合所属のキャディらの復帰を認めていた。他方、従業員らは前示届出の時点で原告との関係を確定的に消滅させるような意思を表明したことはなく、大盛起業が現実にゴルフ場を支配していた状況のもとでは大盛起業の指揮命令下に入ったことも労働者の立場からすると無理からぬと考えられ、更に、組合員らは原告への出向の要求に固執していたが、原告の指揮命令のもとに就労すること自体を否定していたとまでは認め難い。原告としてはこのように従業員らに対し柔軟な態度で臨んでいたが、大盛起業が原告の従業員を将来も自社の従業員として認めない態度を固持したため、従業員との関係に進展が見られないこととなったのであり、原告が、このような大盛起業の従業員にゴルフ場経営の実務を担当させることに懸念を抱き、その身分を離脱するよう求めたのは一応理解しうる。しかし、もともと本件は、従業員が何ら関知しない原告と大盛起業の経営権をめぐる争いの中で発生したものであり、従業員の就労に関する諸問題は最終的には原告と大盛起業間の経営権の存否についての本案判決が確定するまでは、従業員らが原告との関係を確定的に終了させ原告に対し何等の請求もしない意思を有していると認められる場合は別にして、未解決のままの状態で継続するものと解されること等の諸般の事情を総合勘案すると、原告と組合員らとの雇用をめぐる諸関係は未だ不確定といわざるを得ず、したがって、原告は、いまだ労働組合法第七条二号にいう使用者の地位を有するものと解すべきである。

なお、前示の事実によれば、原告の元従業員らは、大盛起業の従業員の身分があることを自認したうえで、原告に出向してゴルフ場で就労することに固執し、その要求を貫徹するために大盛起業の関与のもとに一部従業員とともに大盛起業株式会社労働組合を結成し、引き続き補助参加人に加盟して合労支部を結成し、昭和五九年四月四日以降前判示のごとき就労闘争を敢行して原告の営業を妨害し、あまつさえ原告との合意に基づき就労を始めたキャディ組合所属のキャディらの就労をも妨害しようとし、更に、自らは原告の申し入れた団体交渉には、原告が大盛起業の従業員の身分を離脱することが復帰の前提であるとの態度を改めない限り応じるつもりがないのに、原告に対して一貫してクラブハウスにおける団体交渉を求めていた等の事情からすると、組合員らの行動は、大盛起業の原告に対する戦略(クラブハウス食堂・コース売店の閉鎖、原告との話し合いの回避、執行官保管に係るゴルフ場施設の一部を組合事務所として大盛起業株式会社労働組合・補助参加人に対して貸与、原告の指揮命令下で就労することにした従業員に対する退職工作あるいは解雇、従業員に対する自宅待機命令の解除と昭和五九年四月四日からのゴルフ場への出勤命令等原告のゴルフ場経営に混乱をもたらすものばかりである)に利用され、大盛起業の従業員として大盛起業の業務命令にしたがって原告に対し営業妨害行為を行っているとの疑念を抱かせかねないものがあるが、これらの事情をもってするも、原告と大盛起業及び従業員との前示諸事情によると、原告と元従業員との雇用をめぐる諸関係が確定的に終了したとすることはできず、前示判断を左右するものではない。

以上の次第で、原告は使用者性を有しないとの原告の主張は理由がない。

四  不当労働行為の成否について

次に原告は、クラブハウス内における団体交渉に応じないとしたことは正当な理由なく団体交渉を拒否したことにあたらない旨主張するので、以下この点について判断する。

団体交渉の場所は、本来労使双方の合意によって定められるべきであり、一般には労働者の就業場所で行うのが団結権維持の観点から適当であると解せられるが、合意の整わない場合において使用者が一方的に就業場所以外の場所を指定したとしても、そのことに合理的な理由があり、かつ、当該指定場所で団体交渉をすることが労働者に格別の不利益をもたらさないときには、使用者がその場所以外での団体交渉に応じないとすることをもって不当労働行為にあたると解すべきではない。

これを本件についてみるに、前示の事実によれば、補助参加人は一貫してゴルフ場のクラブハウス内を団体交渉の場所として指定し、原告は大阪府青少年会館や被告の肩書地である大阪府立労働センターを指定して補助参加人の指定場所における団体交渉を拒否していたことは明らかであるところ、補助参加人は、昭和五九年四月四日から連日就労闘争と称してゴルフ場へ大量動員をかけて押しかけ、クラブハウス前において、ビラの配布、シュプレヒコール、ジグザグデモを繰り返したり、従業員食堂、同休憩室に座り込み、同年四月八日には、来場者が続々と到着する時間帯にゴルフ場入口の門扉を約二時間にわたって閉鎖してその入場を阻止したため、原告側と揉み合いとなり負傷者を出す混乱を引き起こし、更に、このような補助参加人の営業妨害的行為を排除するため補助参加人らに対しゴルフ場への立入禁止の仮処分が出されたにもかかわらず、この仮処分は不当であり、ある程度の立ち入りは当然許されるとの独自の解釈をもって、従前と同様ゴルフ場へ立ち入り、クラブハウス前においてビラの配布、シュプレヒコール、ジグザグデモを繰り返し、時にはクラブハウス内に突入しようとして警戒にあたっていた警官隊と小ぜりあいを起こす等立入禁止の仮処分を全く遵守しなかったのであり、これらの補助参加人の行動は同年一一月ころまで程度の差はあっても継続したため、原告のこの期間中の来場者は、前年の同期間と対比して約三三〇〇名も減少したのである。

このような補助参加人の就労闘争の状況、立入禁止の仮処分が出された経緯及びこの仮処分の遵守状況等を総合すると、本件における各仮処分決定は、私法上の被保全権利に基づきなされたものであり、したがって補助参加人の公法上の団体交渉請求権を直ちに制約するものではないとしても、原告がクラブハウス内において団体交渉を行うことは相当でないとして、前示の場所を指定して補助参加人の指定した場所における団体交渉を拒否したことは十分首肯し得るところであり、他方、原告の指定した前示の場所及び補助参加人の住所地は何れも大阪市内にあり、とりわけ大阪府立労働センターは被告の所在地でもあること、組合員らは当時何れもゴルフ場で現実に就労していたわけでもないこと等を考慮すると、前示の場所において団体交渉を行うことによって補助参加人に格別の不利益を及ぼす事態を予想し難いから、原告のクラブハウス内での団体交渉の拒否は正当な理由のない団体交渉の拒否とはいえないというべきであって、他に原告の不当労働行為の存在を窺わせるに足りる証拠はない。

してみると、この点について不当労働行為の成立を認めた本件救済命令の判断は誤りというべきであり、本件救済命令は違法である。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む)の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 北澤章功 裁判官 下野恭裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例